事務局からのメッセージ
『夢解釈』とともにフロイトの精神分析が産声を挙げてから、すでに100年以上の歳月が流れました。フロイトの思想は、人間存在に関わる19世紀までのあらゆる自然科学および人文・社会科学の知的財産が、フロイトへと流れ込むことで誕生しました。そして今日に至るまで、人間存在に関わるあらゆる学問分野に深甚な影響を及ぼしてきました。いまやフロイトには「無意識の発見者」「20世紀最大の思想家」などの称号が惜しみなく贈られています。
しかし現在、とりわけ日本においては、現実の心理的・社会的問題、あるいは思想的問題の考察に際して、知の巨人としてのフロイトの著作が深く読み込まれ、言及されることは意外にも少ないのが事実です。いわばフロイト思想は、その歴史的意味と可能性が汲みつくされることのないまま、表面的な敬意は表されつつも、もはや忘れ去られようとしていると言えましょう。
そのような事態を招いた経緯を鑑みるに、ひとつには、従来の日本においては、真剣にフロイトを参照しようとする場が臨床の領域にほぼ限られていたことが挙げられます。しかもその臨床の場においてすら、患者の社会適応に主眼を置いたプラグマティックな思考が次第に優勢となるにつれ、臨床実践を通じて人間存在の本質に迫ったフロイトの思想の豊穣さは背景に退きつつあります。
また、人文・社会科学の隣接諸領域においても、各領域でのフロイト理論の一時的流行や断片的な言及はあったにしても、学問分野の絶えざる細分化・専門化の流れのなか、フロイト思想自体を軸にした総合的な探求はなされてこなかったのも事実です。
その意味で、臨床的と思想的とを問わず、また肯定的と批判的とを問わず、フロイト思想に関心をもつあらゆる研究者が、多様な学問的立場から自由に意見を発表し交換できる場が、現代日本において必要とされていると私たちは考えます。
以上のような考えに基づいて、私たちはここに「フロイト思想研究会」を設立いたします。本研究会は、上記の理念よりして、党派的な偏狭性に陥らないことを理想とします。哲学、文学、芸術、宗教、人類学、社会学、医学、心理臨床など多彩な領域のあいだでの真摯な議論の中から、従来にない新たなフロイト理解、そしてフロイトを介した学際的交流が生まれ、それによって人間と社会についての私たちの洞察が深まるならば、本研究会の目標は達成されたことになるでしょう。
「家に帰ったら、フロイトのあの論文を読み直してみたいな」
閉会後の帰り道、こんな思いが参加者ひとりひとりの胸に浮かんでくるような、そんな知的刺激に満ちた研究会を、ぜひとも創りあげようではありませんか。
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フロイト研究の射程
①学際的取り組みとして
現在、研究会には、精神分析の理論を専門とする研究者はもとより、社会学、文学、哲学、ユダヤ史、教育学、宗教史、民俗学、美術史といった様々な領域を専門としつつフロイトに興味を持つ人々が集まっています。今日我々が取り組むべき問題は、いまや学問領域の垣根を越えて、それぞれの研究者が共同して取り組むことが望まれています。本研究会では、フロイトの思想を媒介として、互いの領域における問題意識を接続し、豊かな人文知の可能性を探ることが目指されます。
②思想史的取り組みとして
フロイトの思想は、それまでの思想・科学の伝統を引き継ぎながら、ちょうど世紀転換期のヨーロッパの文化的雰囲気の中で生れ、その後20世紀を通じ、積極的な受容としてであれ、批判的な参照項としてであれ、臨床・思想・科学・芸術・文学などといった様々な分野に色濃い影響を与えてきました。思想史的観点からフロイトの思想を見直すことで、今日の我々がどのような問題を引き継いでいるのか、その輪郭を描き出し、そうした問題に総合的に取り組むための手掛かりを得ることができると考えます。
③臨床と思想の接点として
フロイトの思想が精神分析という実践と切り離せないことは言うまでもありません。フロイトの思想は心理臨床の出発点として位置付けられますが、これまでに科学技術や経済構造において大きな変化を経験し、また同時に多様な文化の接触が問題となっている今日の社会状況においては、個々の心の苦悩に対応するためにも、フロイトに再度立ち戻り、こうした変化に応じた思想的基盤を新たに見出していくことが必要であると思われます。とりわけ、心理臨床において行動主義的アプローチや投薬がひとつの解決を与える有用な手段となっている昨今であるからこそ、治療が、如何なる「人間性」の回復を目指すものであるかという問いを、フロイトの思想とともに考えることに意義があると考えます。
とはいえ、フロイト研究の射程は、以上に限られるべきものでもありません。研究会の活動を通じ、新たな視点、新たな方法論、新たな実践の基礎が芽生えてくるならば、それこそ研究会の本意に沿うことであると考えます。この研究会が、それぞれの参加者にとって創造的な研究の発表の場となり、それによって互いのテーマの深化が促されるような場となることを願います。
<次回のお知らせ>
日時:11月28日(土)15:30より
場所:京都大学人間・環境学研究棟333教室
発表者:崔美淑(京都大学人間・環境学研究科 修士課程)
指定文献:「性理論のための三篇」(1905) 全集6、GW5
タイトル:「愛の精神分析」~性理論三篇をめぐって~
1905年に発表された「性欲に関する三つの論文」はフロイトの精神分析を理解する際に大事な論文だと思われます。
フロイトは直接愛を論じる文章は少ないが、精神神経症やヒステリー患者の観察で、性欲の抑圧が症状の原因だと論じております。
その後フロイトは少しずつ上の観点を修正していきますが、愛を論じる際にこの三つの論文は欠かせないと思うので、今回のテーマにしました。
準備期間が短く、普段の勉強不足のため、雑な発表になるかもしれませんが、ご指摘どうぞ宜しくお願いいたします。
第二十八回月例会
日時:12月19日(土)15:30より
場所:京都大学人間・環境学研究棟433教室
発表者:塩飽耕規(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程2年)
指定文献:『精神分析概説』「第二部 実践的課題」(1938)、全集22、G.W.17
「精神分析治療に際して医師が注意すべきことども」(1912)、全集12、G.W.8
「分析治療の開始について」(1913)、著作集9、G.W.8
タイトル:精神分析における契約についての一考察
この度は発表させていただく機会をあたえてくださいましてありがとうございます。
大阪大学の塩飽耕規(しわくこうき)と申します。
私の主な研究内容は、現象学的視点から精神分析実践の出来事を論じることです。
今回は、マルセルからリクールへ受け継がれた「約束」の分析に示唆をえて、論文を
書かせていただきました。分析状況を成り立たせている不完全な契約に焦点をあて、
知的財産としてではなく、方法としての精神分析を明確化したいと思っております。
別件で宣伝をさせていただくのは恐縮ですが、『現代思想12月臨時増刊フッサール
』にて拙訳「超受容性について」(アンリ・マルディネ)を掲載させていただきました。
マルディネは、一昔前のフランスの現象学者ですが、古い実存分析にとらわれず、
ウィニコットやドルトを参照しながら、新しい現象学的精神病理学を構築した人です。
手に取っていただけると幸いです。
第二十九回月例会
日時:1月31日(日)14:30より
場所:京都大学人間・環境学研究棟333教室
発表者:原圭佑(京都大学大学院 人間・環境学研究科 修士課程)
タイトル:夢と人類学
主要参考文献:「集団心理学と自我分析」(1921)、全集17
『夢解釈』(1900)、全集4、著作集2
<各回の記録>
<各回の記録ファイル>
「フロイト思想研究会」 事務局
Tel : 075-753-2914(京都大学大学院人間・環境学研究科新宮研究室)

